花占い

5/13
前へ
/13ページ
次へ
この墓地にはコスモスがところせましと咲いている。 彼女の墓の横にもコスモスが咲いているから、ここに落ちていても何ら不思議ではない。 しかし……コスモスは傷んでいるようには見えないし、この完璧な位置もそうだ、なんとなくだが、このコスモスは誰かが置いたようにみえる。 しかもよく見ると花びらが一枚欠けている……いや、これくらいは人為的じゃなくてもありえるか…… 花びらの一枚欠けたコスモス─── なにか、懐かしい感覚に襲われた。 それもなんだか幸福感のある感覚。 しかし、それがどういう記憶なのか具体的に思い出せない。 喉元まで出かかっているのに、非常にもどかしい。 きっと、必ず、絶対、よく知っていることなのに─── ふと顔を上げ、彼女の墓石が目に入ったとき 花占い─── その記憶は唐突に蘇った。 彼女が好きだった、彼女と二人でよくやった、二人花占い。 僕はそれを思い出して、自然とほころんでしまった。 二人花占いというのは、なんてことはない、恋人同士の仲良し遊びだ。 花占いというのは、すき、きらい、すき、きらい、または、きらい、すき、きらい、すき、と唱えながら花びらをちぎっていって、最後の花びらをちぎったときに唱えていた内容が相手の気持ちを表す、という遊びだ。 これを恋人同士でやると、交互にちぎっていって好きで終われば正解だと言って、嫌いで終わればそれは違うと言う、本来の「恋に悩んだ占い」などという面影もない遊びになる。 彼女はこの遊びを気に入っていた。 主に彼女からこの二人花占いは始まって、彼女は僕が二枚目をちぎるのを目をかがやかせて待っていたのを覚えている。 僕が相手しないと不機嫌になった日もあったな。 こんな大事なことを忘れていただなんて、最初の話に戻るけれど、やはり記憶が薄れていっていることの象徴のように思える。 彼女を忘れる日は近いのかもしれない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加