花占い

6/13
前へ
/13ページ
次へ
そのとき、回想を遮るようにメールの着信音が鳴った。 しかもそれは勤め先からの着信音で、通常のものより過敏に反応してしまった。 メールの内容は休暇の短縮だった。 そのせいで、明日帰るはずだった予定がずれこみ、今からその準備をしなくてはいけなくなった。 まったく、こんなだから墓参りに来るのがこんなに遅くなるんだ。 僕は文句を浮かべながら携帯をしまい、そして浮かんだ文句も心の内にしまい、彼女の墓に向き直った。 コスモスの花をどけるわけにはいかないから、その少し手前に自分の花を置き、手を合わせて頭を垂れ、彼女に話しかけるような内容を頭に思い浮かべた。 ここに来るのに3年も待たせてごめん。 仕事が忙しくてさ……今日も今から帰らなくちゃあいけない。 君と過ごした時間でも仕事で振り回したりして、それでも我慢してくれたことを覚えてる。ありがとう。 たまにはただこねる君も見てみたかったかも、なんて。 また来るよ。今度は3年後なんてことはなく、できるだけ早く。 それじゃあ。 それだけ言って、僕は去ることにした。 時計をちらっと見ると、まだそこまで急ぐ時間じゃなく、新しいネクタイでも見ようかなと考えながら、コスモス畑をまた戻っていく途中で、何気なく一輪のコスモスが目に止まったそのとき、 ぽとり と、そのコスモスの花びらが一枚だけ、ひとりでに落ちた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加