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そのとき、回想を遮るようにメールの着信音が鳴った。
しかもそれは勤め先からの着信音で、通常のものより過敏に反応してしまった。
メールの内容は休暇の短縮だった。
そのせいで、明日帰るはずだった予定がずれこみ、今からその準備をしなくてはいけなくなった。
まったく、こんなだから墓参りに来るのがこんなに遅くなるんだ。
僕は文句を浮かべながら携帯をしまい、そして浮かんだ文句も心の内にしまい、彼女の墓に向き直った。
コスモスの花をどけるわけにはいかないから、その少し手前に自分の花を置き、手を合わせて頭を垂れ、彼女に話しかけるような内容を頭に思い浮かべた。
ここに来るのに3年も待たせてごめん。
仕事が忙しくてさ……今日も今から帰らなくちゃあいけない。
君と過ごした時間でも仕事で振り回したりして、それでも我慢してくれたことを覚えてる。ありがとう。
たまにはただこねる君も見てみたかったかも、なんて。
また来るよ。今度は3年後なんてことはなく、できるだけ早く。
それじゃあ。
それだけ言って、僕は去ることにした。
時計をちらっと見ると、まだそこまで急ぐ時間じゃなく、新しいネクタイでも見ようかなと考えながら、コスモス畑をまた戻っていく途中で、何気なく一輪のコスモスが目に止まったそのとき、
ぽとり
と、そのコスモスの花びらが一枚だけ、ひとりでに落ちた。
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