花占い

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道に突っ伏した僕は、恐怖で身を震わせながら頭を抱えて小さく小さく丸まり、助けて、助けて、助けて、とうわ言のようにつぶやいていた。 コスモスのうごめくざわめきが丸めた背中から伝わり、全身に寒気が走った。 絡みつくコスモスに絞め殺される映像が脳裏に浮かんだ。 そのまま随分と長い時間を過ごしたように思う。実際どのくらいかはわからない。 急にざわめきが遠のいていき、気がつくとあたりは静かになっていた。 それでも僕はまだ動けなかった。 ただ逃げの一手をうち、何も考えないよう徹していた。 死の恐怖すらも考えないよう、ただ、ただ、空っぽに。 しかし静寂が長くなってきて、やっと僕の頭も働くことを考え始めた。 音がなくなった。コスモスは動きを止めたのだろうか。死ななくて済むのだろうか。もう目を開けても大丈夫だろうか。体を起こしてもいいだろうか。動き出した瞬間また襲われるんじゃないんだろうか。そもそも今のはなんだろうか。夢でも見たのだろうか。 夢だろうがなんだろうが、目を開けないことには結局考え続けても何もわからなかった。 それならと、僕は恐る恐る目を開け、顔をあげた。 日の光が急に目を焼いてまぶしく、前方は白一色にしか見えない。 だんだんと明るさに目が慣れてくると、その白一色にピンク色の何かが浮かび上がってきた。 花びらが一つ欠けた、一輪のコスモスだった。 僕は視界に次第に浮かび上がるそれを見て、またなにか記憶を思い出しそうになった。 さっきとは違って、今度はなんだか悲しい記憶だ。 また、思い出せない。出掛かっているのに。 そのとき僕は膝肘をついたみっともない四つん這いから立ち上がろうとして、地面に手をついた。 その手にはまだ、彼女がつけていたのと同じ婚約指輪がつけられていた。
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