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足を押さえて泣き喚きながら転がる太めには目もくれず、片手は山の頂点にいる鋭い目をめざして大股で駆け登っていく。扇動の中心が鋭い目であることを確信しているかのような動きだった。
危険が間近まで迫っていることに鋭い目もやっと気がついていた。頼りなく不安定な足場はどちらにとっても不利だった。鋭い目は手元の家具を鉄筋で叩き壊し、手ごろな欠片を掴んで投げつけた。
地上であれば難なく交わせるであろうそれも、悪い足場ではうまく避けられない。鋭い目が連続して投げつけた欠片のひとつが片手の頬を直撃した。硬そうな皮膚が裂け、血が噴出す。
拭ったこぶしに滴り落ちた赤い血を見た片手は叫び声を上げ、その気合とともに一瞬で鋭い目との間合いを詰める。迎え撃とうと鋭い目が振り回した鉄筋は、太めの一撃と同様に、優雅にも見える一振りで簡単に跳ね飛ばされた。鋭い目は気圧され固まったように動きを止めた。鉄筋の先が鋭い目に一直線に向けられた。そのまま真っ直ぐ伸ばされたなら、鋭い目の身体は鉄筋に貫かれるに違いない。ガキどもの嘆声が上がった。片手の元剣士が吼えた。
さっきまで窓から家具が放り投げられていた建物から誰かが飛び降りてきた。人影は片手の元剣士のすぐそばに着地した。
茶色だった。
着地の勢いで足場が崩れる。茶色はなんの苦もなく別の場所に飛び移る。一方、片手はまた体勢を崩していた。茶色は片手の元剣士の足を狙って細い鉄筋を振り回した。片手は鉄筋で足をかばう。攻撃はなんとか防いだものの、無理な体勢で身体の安定はさらに失われてしまう。
片手の元剣士は頭から転げ落ちた。
元剣士にとって運の悪いことに、落ちた先には比較的大きな瓦礫が転がっていた。元剣士は逆さまのまま鋭利な瓦礫に墜落した。全体重で瓦礫に突き刺さる。雄叫びとは異なる苦悶の絶叫が漏れる。元剣士は普通ではない方向にねじ曲がった腕を下敷きに地響きのような音を立てて地面に倒れた。
茶色の登場にガキどもは沸いていた。わけの分かっていない男たちも元剣士が倒れたのを見て一緒になって歓声を上げていた。
鋭い目は鉄筋を拾い地面に転がる片手のそばに飛び降りようと身をかがめた。それを茶色が止めた。鋭い目は茶色に食ってかかった。茶色は躊躇なく鋭い目を殴り倒すと、自ら元剣士のそばに飛び降りた。
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