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少年も迷わずそこに向かった。
少年の姿に気がついた茶色は一瞬小さく笑った。それから厳しい表情に戻り、拾った鉄筋の先を倒れた元剣士の喉に押し付けた。
「動くなよ」
茶色の声は低かった。
元剣士は答えずに吼えた。
「このままじゃ、アンタの仲間がここの連中に引き裂かれちゃうよ」
元剣士は返事をしなかった。茶色の突きつけた鉄筋は喉に大きく食い込み、無理に動けば突き破りそうだった。
「もう皆、充分騒いだと思ってるよ。だから、アンタたちが退いたら収まるんじゃないかな。なんで騒ぎ出したのかなんて覚えてないだろうから」
茶色はいつから騒動を見ていたのだろう、茶色が何もかもお見通しなのが少年には不思議だった。
「殺せ」
元剣士が吐くように言った。
「止めを刺せッ」
喉に食い込んだ鉄筋をものともせず、元剣士は叫んだ。元剣士の顔は汗と埃に塗れていた。が、怒りを湛えた目にはまだ力がみなぎっていた。
「オレはアンタと闘っちゃいない。止めただけだ」
「同じだ。オレはこうして地面に倒れている。おまえは立っている。おまえの勝ちだ」
「アンタ、あいつになんで止めをささなかった?」
茶色は向こうで倒れている太めをあごで示した。
「ここの連中相手に本気は出さない」
片手の元剣士は笑うかのように歯を見せた。声は自信に満ちていた。
「よく分かった。オレは本気だ。退いてくれ」
茶色の声に隙は無かった。
元剣士は返事をせずに息を整えていた。
「数が違い過ぎるよ。アンタたちがどれだけ強くても、ここの連中全員を相手にするわけにはいかないだろ」
そう言うと茶色は元剣士の喉元に突きつけていた鉄筋を山の上に放り投げた。
「オレたちはここから出て行く。だから、アンタたちもここから出て行ってくれ。あいつは」
茶色は山の上で座り込んだ鋭い目を指差した。
「あいつは、オレが連れて帰る」
元剣士は無言のまま起き上がらなかった。茶色が貸した手を首を振って拒絶した元剣士は身体を大きくくねらせてから転がり、捻じ曲がった片腕の付け根を硬い地面に叩き付けた。しばらく続いた絶叫のあと、元剣士は正しい位置に戻った腕の動きを確かめるように動かし、その手で自ら身体を起こした。
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