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まさか、昨日の俺のラブレターを捨てたのは蓮井だったのではないだろうか。そう思い至った俺は、居ても立っても居られなくなる。握りこんだ拳は震えていた。
「だから、からかわないでって。それに、この手紙には気持ちが籠ってるんだよ。この手紙を入れるのだって、きっと凄く勇気が必要だったと思うんだ」
「郁の経験談か?」
「さあね。人の好意を無碍にするような人には教えません」
……天使だ。俺の天使がきらきらとした真っ白な翼を広げ、どす黒い悪の元凶を咎めている。きっと悪は心苦しいに違いない。そうだ、そのまま先輩の純粋で素晴らしいお心に触れ、気化してしまえば良い。
「んな怒らんとってなー。冗談やって、冗談」
「冗談でも駄目」
「はいさー……って、言いながらそのまま下駄箱にしまうんかいな」
「だって、まだ来てないみたいだから」
「はあ?」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「え? 手紙はええんか?」
「うん。行くよ」
次第に天使のオーラが離れて行く事を感じ取り、柱から離れた。一歩づつ、佐々木先輩の下駄箱へと近づく。蓮井は先輩と帰ったのだから、もうこの学校には俺を邪魔する人間はいない。このラブレター第二号を捨ててしまうような非道を働く輩は去ったのだ。
「好きです。佐々木先輩」
俺は、先輩の下駄箱に向かって愛の告白をした。
それから下駄箱へ向かって一礼し、小さな扉を開く。
「……え? あれ?」
ぱちぱちと、大きく瞬きをする。驚きの余り固まってしまった腕をギギと動かし、それに触れた。
中にあったのは、先輩の上履きと一通の手紙。それは、見覚えのありすぎる手紙だった。
「俺の、手紙? どうして、……」
思わず先輩への疑問が口から零れる。
昨日入れたものは、ここまで綺麗に折りたためていなかったはずだ。と、言う事は……この手紙に触れた人物は一人しか居ないだろう。
先輩が俺の手紙を綺麗に折ってくれたのだろうと思うと、言い表せない感動が胸に込み上げる。このままラブレターを持ち帰り、あの細い指先で丁寧に折りたたむ姿を想像しながら、神棚に奉りたい。
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