第一章

11/15
前へ
/41ページ
次へ
 しかし、俺にはその前に確認すべき点があった。何故、一度開いたであろうラブレターを、再び折りたたんで中にしまったのか。  その疑問を明らかにするため、まるで先輩のように美しく柔らかな折り目を壊さぬよう、丁寧に紙を開く。 「なんか、書かれてる? 先輩の字……?」  俺が書いたのは一言だけ。その後に書かれてあるのは、どこからどう見ても先輩の文字である。素晴らしい達筆。いかに心が綺麗な人なのかが、書かれた文字からも滲み出ていた。  ――ゴメンね。今日は用事があって行けないんだ。  それは、俺への返事だった。  ――明日の放課後なら空いてるけど、どうかな?  明日って、明日?  今日の明日は明日だけれど……昨日の明日は…… 「今日じゃねぇか!」  俺は手紙を持ったまま、膝から崩れ落ちていた。  せっかく、先輩が俺のために提案してくれているにも関わらず、俺は先輩の心を疑い、迷っていた。  なにを、していたんだ俺は……。何故、あの後に先輩の下駄箱を開かなかった。バカ、俺のバカ!  後悔だけが体を支配し、徐々に全身を蝕んでいく。 「先輩……すいません、先輩……」  床に手をつくと、声にならない嗚咽と共に、涙が溢れ出て来る。ポツポツと床を濡らす涙。次第に大きくなっていく水溜りに、俺はこのまま沈んでしまいたいと思った。  ――お前の、先輩に対する気持ちはその程度か?  ここに居るはずのない、宮田の声が脳内に響く。  ――いつもみたいにさ。やっぱや~めたって、両手投げ出して諦めちまえよ。  駄目、だ。駄目だ。ダメだ。  こんな所で泣いている場合ではない!  勢い良く立ちあがった俺は、服の袖で涙を拭う。  追いかけなければ。先輩を。  再び走りだした俺は、ただ先輩の自宅への道をひた走った。 *  駆けだして五分そこそこ。  聖なる天使の、愛くるしい背中を発見した。 「佐々木先輩!」  振り返った先輩が放つオーラは、いつにも増してキラキラと輝いている。驚きのあまり開かれた瞳、そのきょとんとした顔を、俺は一生忘れる事はないだろう。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加