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しかし、俺にはその前に確認すべき点があった。何故、一度開いたであろうラブレターを、再び折りたたんで中にしまったのか。
その疑問を明らかにするため、まるで先輩のように美しく柔らかな折り目を壊さぬよう、丁寧に紙を開く。
「なんか、書かれてる? 先輩の字……?」
俺が書いたのは一言だけ。その後に書かれてあるのは、どこからどう見ても先輩の文字である。素晴らしい達筆。いかに心が綺麗な人なのかが、書かれた文字からも滲み出ていた。
――ゴメンね。今日は用事があって行けないんだ。
それは、俺への返事だった。
――明日の放課後なら空いてるけど、どうかな?
明日って、明日?
今日の明日は明日だけれど……昨日の明日は……
「今日じゃねぇか!」
俺は手紙を持ったまま、膝から崩れ落ちていた。
せっかく、先輩が俺のために提案してくれているにも関わらず、俺は先輩の心を疑い、迷っていた。
なにを、していたんだ俺は……。何故、あの後に先輩の下駄箱を開かなかった。バカ、俺のバカ!
後悔だけが体を支配し、徐々に全身を蝕んでいく。
「先輩……すいません、先輩……」
床に手をつくと、声にならない嗚咽と共に、涙が溢れ出て来る。ポツポツと床を濡らす涙。次第に大きくなっていく水溜りに、俺はこのまま沈んでしまいたいと思った。
――お前の、先輩に対する気持ちはその程度か?
ここに居るはずのない、宮田の声が脳内に響く。
――いつもみたいにさ。やっぱや~めたって、両手投げ出して諦めちまえよ。
駄目、だ。駄目だ。ダメだ。
こんな所で泣いている場合ではない!
勢い良く立ちあがった俺は、服の袖で涙を拭う。
追いかけなければ。先輩を。
再び走りだした俺は、ただ先輩の自宅への道をひた走った。
*
駆けだして五分そこそこ。
聖なる天使の、愛くるしい背中を発見した。
「佐々木先輩!」
振り返った先輩が放つオーラは、いつにも増してキラキラと輝いている。驚きのあまり開かれた瞳、そのきょとんとした顔を、俺は一生忘れる事はないだろう。
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