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「……気持ち悪い」
一瞬にして、世界が絶望に染まる。
先輩に気持ち悪いだなんて思われるこの世界で、生きてはいけない。このまま先輩の記憶を奪って、崖から飛び降りたいと強く思う。
先輩の気持ちも考えずに突っ走ってしまった俺の罪だ。
嗚呼、そんな憐れむような目で見つめないで欲しい。穴があったら入りたい、……違うな。
自分で穴を掘ってでも、地球の裏側へ逃避行したい。ブラジル辺りならば、人の居ないジャングルのど真ん中に、一発昇天出来る崖がありそうだ……。
「……沙弥は、そう思う?」
「んあ?」
「沙弥は、気持ち悪いって思う?」
「普通に考えて気持ち悪いやろ。この様子やと、ストーカー歴も長そうやし。この会話も、録音してはるかもしれんのやで? ほんま、何し出すか分からん人種や」
「……そっか」
今すぐジャングルに向かう具体的な手立てが見つからなかった俺は、二人の会話を聞きながら肩を落とし、俯いた。
すいませんでした。ごめんなさい。
先輩に気持ち悪い思いをさせてしまった事を謝ろうと唇を動かすが、声を出すと同時に、涙が溢れてきそうだったから。俺は、何も言えずに地面と向かい合っていた。
――刹那。柔らかな声が、俺の鼓膜を揺らす。
「俺ね、……嬉しかった。好きだって言われて、こんなにドキドキしたのは初めて。俺、湯原くんの事が好きなのかもしれない。……そうだったら、沙弥は俺の事も、気持ち悪いって思う? おめでとうって、お祝いして貰えない?」
俺の脳内から、ジャングルが吹き飛んだ瞬間だった。幻聴かもしれない、とも思ったけれど。驚きの余り、目を一つ二つ落としそうな蓮井を見、幻聴などではないと確信する。
「郁? 何言うてはるん……。気ぃしっかり持ちや?」
「俺は正気だよ。だから、答えて」
「郁が幸せやと思うなら、俺は……って、何言わすねん。別に、郁を否定する気はないけど、今後の対処法はちゃんと考えてんの? コイツと付き合うって事が、どういう事か。しっかり考えての決断やったら、……俺はもう何も言わへん」
「彼となら大丈夫な気がする。それに、沙弥がお祝いしてくれるなら、俺は誰よりも幸せだよ」
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