22人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ほんま、それ反則やわ」
始末が悪そうに額を抑える蓮井。
ペテン師とは言え、この天から舞い降りた天使に勝ち目はないらしい。そう、と呟くように告げた佐々木先輩の吐息交りの声に、可愛さの余り身を震わして居たのだけれど――
「湯原くんは、俺のこと好き?」
急に尋ねられ、声が出なかった。ただ、ぼんやりと先輩を見つめていた。どれだけの時間が経ったかは分からないけれど。
先輩の質問を理解するなり、ただ必死に首を縦に振って、先輩への愛情を精一杯表現する。そんな行動を見た先輩は、満足そうに笑うのだ。
何かに満たされたような笑顔。俺は、先輩のそんな表情を初めて見た気がした。
「す、すっすき! です!」
そう叫んだ俺の体は、無意識の内に佐々木先輩を抱き寄せていた。
恋が実る事の喜びがいっぱいに広がる。高鳴る胸はとても熱いのに、ちっとも苦しくない。初めての気持ちだった。
幸せだ、幸せだと、伝わって来る先輩の温もりを感じた体が叫んでいる。抱きしめ返された細い腕に、俺は思わず涙を零して居た。
しかし、その手に掴んだ幸せが、様々な魂胆や擦れ違いが生んだものだったのだとは。
今の俺が知る由もない――
最初のコメントを投稿しよう!