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「湯原くんは、帰宅部だっけ?」
「あっ、は、はいっ! そ、そうっす!」
俺とさほど変わらない身長。なのに、その服越しにでも分かる細身で綺麗な体躯と、天使のような笑顔は、一つ上の先輩だとは思えない程に純粋で、眩しい。
「そうだよね。俺とお揃いだったもんね」
――嗚呼。神様。
俺は今、猛烈に感動しています。運動神経が皆無なせいで入れなかった運動部。持続力が無さ過ぎるせいで入っても長続きしなかった文化部。
退部届を握りしめた時、俺はこんな自分を作った貴方を恨んだ時もありました。ですが、今は! こんな俺にしてくれてありがとうと叫びたい。
嗚呼。神様。俺は今、佐々木先輩とお揃いの帰宅部である幸せを、この上ないほど噛締めています。アーメン!
目を細め、同意を求めるように首を傾げる先輩を目に映した俺は、頭を抱えて天を仰ぎそうになった。
先輩の登場により沸騰していた全身の血が沸点を迎え、じわじわと蒸発していく。今にも昇天しそうな勢いだ。頭上に降臨した天使達と共に、喜びの舞いを踊りたい気分である。
「じゃあ、俺はそろそろ行くね。バイバイ」
ふにゃりと目尻を下げて、天使の笑みを零す先輩。俺の頭上に降臨した天使はあなたでしたか、と。ひらり振られた掌につられ、軽く頭を下げる。遠ざかって行く背中には、羽が生えているようだ。
……好きだな、と思う。
あの背中に手を伸ばす権利が欲しい、と願う。
腕の中に閉じ込めて、その愛くるしい瞳で俺だけを見て欲しい。
――佐々木先輩。好きです、愛しています!
俺はこの愛を、世界中に響くほどの声量で叫びたい……っ!
下駄箱にしがみ付き、一生語り続けられるであろう先輩への気持ちを、熱く丁寧に言葉にしていた俺は、ふと思い出す。
「……って? あれ?」
慌てて下駄箱から離れ、上履きのまま昇降口を駆け出てみるものの、先輩の姿はどこにも無かった。
「先輩!? な、なんで帰るんっすかー?!」
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