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「マジか」
「マジだ」
「お前さ、ちゃんとその人の下駄箱に入れたのか?」
「はあ? 俺が先輩の下駄箱を間違う訳ねぇだろ、バカ」
ある日突然、先輩の下駄箱の位置が変わったとしても、その変化に気付き、すぐに新しい場所を見つけられる自信すらある。だから、この俺が先輩の下駄箱を間違う訳がないのだ。決して。
宮田は俺の答えに納得したのか、小さく相槌を打った。
「……無くなった、とか?」
次に宮田が告げた言葉も、俺にとってはあり得ない事だった。きちんと先輩の下駄箱に入れたはずの手紙が無くなる訳がないだろう。しかし、宮田は真剣に、そして人が変わったかのような低い声で告げた。
「お前達が付き合う事を、良く思ってない人間もいるかもしんないだろ……」
ゴクリ、と生唾を飲んだ。
俺と先輩が付き合う……その甘美な響きに、零れそうになった涎を飲み込んだのだ。思わず身震いをしそうにもなる。
否、俺の指先は震えていた。宮田が告げた、理由も分からずに掴み損ねた近い未来の話。何故あの時、この掌でしっかりと掴め切れなかったのか。昨日の出来事を振り返れば、悔やんでも悔やみきれない。
「誰かが、お前のラブレターを奪って捨てた可能性。考えなかったのか?」
「……は?」
コイツは、一体何を言い出すのだ。
呆れて顔を上げれば、宮田は眉間に皺を寄せたまま床を眺めていた。それと同時に、脳裏には数十秒前に宮田が告げた言葉が、いそいそと戻って来る。
俺達が付き合う事を、良く思っていないヤツがいるかもしれない……。そんな罪人を、俺がみすみす逃す訳がないだろう!
「誰かって誰だよ!」
「急に大声出すなって」
片目を閉じて耳を塞いだ宮田は、自分の鼓膜が健在である事を確かめてから、うむ、と何か考えている風の声を上げる。こう言った推理云々は優等生に頼るに限る。
俺は黙って、その横顔を見つめていた。
「その、先輩? の事を好きなヤツとか?」
「あー……あり得るかも」
「もしくは、……お前の事を好きなヤツだったり」
「それはねぇだろ。どう考えても」
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