第一章

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 返事は無い。いや、別に必要ないけど。言われなくても分かってる。きっと次の可能性を思案しているのだろう。  俺は宮田の顔を覗き見るように、首を傾けた。宮田は少し顎を引いて、眉間に皺を作ったまま、相変わらず床と見つめ合っている。 「おい、宮田」  問いかけても反応はない。ただ、何がきっかけだったのか、暫くして宮田は息をついた。それから、それじゃあ、と再びいつもの表情に戻った宮田が告げた一言は、俺に酷い衝撃をもたらせた。 「先輩が捨てた、とか」  ――捨て、た? ……先輩が? 「答える気すら無かったら、そうするかもしれないだろ?」  肩を竦めてみせる宮田に対し、そんな事はあり得ない、と叫びたかった。ただ、それが行動に出なかったのは、少なからず宮田の発言が現実かもしれない、と思った自分がいたから。 「先輩は、そんな事……する人じゃ、ない」  咄嗟に脳裏に浮かんだ対応とは裏腹、今にも教室の喧騒にかき消されそうな、小さな小さな声しか、絞り出せなかった。 *  俺は、走っていた。  放課後。教室から昇降口までの廊下を、全力で。人にぶつかろうが、階段から落ちようが、俺は手の中に握りしめた手紙だけは放すまいと。それだけを守り続けて走っていた。  発端は、六限目の前。本日最後の休み時間の事だった。  先輩に手紙を捨てられたかもしれない、と俺は酷く落ち込んでいた。もう、一生立ち直れる気すらしなかった。そんな時、俺を絶望の渦に叩き落とした宮田が、言ったのだ。  ――お前の、先輩に対する気持ちはその程度か?  俺は、顔を上げた。  ――いっかいフられたくらいで諦めるなら、さっさと忘れちまえ。  宮田にしては、良い発言だと思った。  ――いつもみたいにさ。やっぱや~めたって、両手投げ出して諦めちまえよ。  興味のない事には、とことん無頓着。三日坊主が基本行動に入るほど、継続力のない性格で。  今までの恋だって、好きな子のタイプが自分とはかけ離れたものだったとか、モテるから手が届かないだとか、なんだかんだ理由をつけて諦めてきた。せいぜい、俺の恋の寿命は一週間程度。
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