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俺は、ぶんぶんと首を振った。
この恋が成就しないなんてあり得ない。そんなあり得ない未来を想像した所で、これっぽっちの得もない事に気付き、平手で頬を叩く。
気合を入れ直すのだ。廊下を行き交う生徒達は、俺の気迫溢れるオーラに圧倒されたのか、わらわらと道を空けてくれる。
ここからが本番だ。
息を切らせながら辿りついた昇降口。俺は、今日も先輩の下駄箱の中に手紙を入れようとここまで走って来た。
柱の陰に隠れ、一度大きく深呼吸をする。ここで、宮田が言っていたように下駄箱の場所を間違えては元も子もない。落ちつけ俺。何度も言い聞かせた。
――そんな時。
「なんや、郁。またラブレターかいな?」
姿を確認せずとも、俺の運命の人の気配を感じ取った。麗しい俺の天使は、今日も素敵なオーラを放ち世界を浄化している。
「通算五百通目のラブレターやな~。赤飯でも用意したるわ」
「沙弥。からかわないで。と言うか、五百通も貰ってないよ」
「またまた~。ま、それが一通目であれ千通目であれ、ジェラシー感じる事には変わりないわ。どこの馬の骨やも分からん女に郁は渡せへんってな」
ペラペラと軽い口調で嘘っぽい言葉を並べ連ねているのは、毎日のように佐々木先輩に付きまとっている男。蓮井沙弥である。
名は体を表す、とはよく言うもので。蓮井と言う男に関しては、まさにその通りだと思っている。蓮井の名を聞き、可愛い女子を思い浮かべる男は数知れないだろう。名前からして、人を騙そうとするペテン師。それが、蓮井沙弥なのだ。
「なあ、郁。その手紙捨てへんの?」
「何で?」
「せやから、ジェラシーやって。郁が見知らぬ女に取られるとか、想像もしとうないわ。そうなったら俺、生きていけへんもん」
――……まさか。
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