2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
目が開かず、朧気に周りの音に耳を傾け、
自分の抑えきれない空腹を感情のままに叫ぶ。
おいしいくて、あたたかいのみもの、どこ。
一人暗闇を彷徨う。
すると、毛に覆われた温かい壁に体が触れる。
このぬくもりに包まれると、なんとも言えないような
安心感が満ちる。
母親の腹に到達し、乳の出処を探す。
見つけたら、待ちに待った食事である。
まだ小さな手で腹を揉み、出を良くする。
もっとほしい、もっと、と言わんばかりに。
腹が満たされればすぐに襲ってくる眠気。
暗闇のそのまた深い底へと沈む。
大体はこの繰り返しであった。
しかし、今日は何故か、違う予感がした。
目のあたりがむず痒い。
その痒さと格闘していると、
ゆっくりと瞼が持ち上げられた。
わたしが生まれて初めて見たのは、母の顔であった。
ふてぶてしい顔、しかしどこか逞しさと優しさがある。
これがわたしの母。予想とは少し違ったが、
それでも幸福感は変わらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!