迷惑、タンジョウ

5/5
前へ
/5ページ
次へ
よく眠り、よく食べ、よく動き。 これで成長しない訳があろうか。 私はすくすくと大きくなった。 最近ではヒトから 「コベ」 と呼び掛けられる事が多くなった。 それが私の、名前であろう。 母は「ちゃー」と呼ばれていた。 ヒトは良い。幼かった頃よりもずっと、そう思う。 鳴けば反応し、近付けば撫でられる。 腹が減れば食事が出てくる。 素晴らしい毎日に感じられた。 しかし私はその頃から 透明な壁の向こうを知りたいと思い始めていた。 雨が降ったり、風が強かったり、時には白い雪が降る。 日々変化しているのだ。 空を飛ぶ生き物や高く跳ねる生き物など、 私の本能を駆り立てる物ばかりだ。 私は透明な壁に手を当てる。 時に爪を出して軽く引っ掻いてみる。 ヒトに見つかれば、だめよ、と言われて その壁から離される。 この室内を見回してみても、なんの変化もない。 机は走り出さないし、 本は飛ばない。 ああ、なんて退屈なのだろう。 食事をし、できるだけ高いところへ登り、眠る日々が続いた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加