明治発熱 1 (片想い編)

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私はただあんぐりと口を開ける事しかできません。 「ーーしょせんは男の人よねぇ~」 何でもないことのように言ってのけると、口もとを袂でかくしてころころ楽しそうに笑うお姉様。 私などもう、耳まで熱いというのに。 「あなたはいかが、こう子。私ほどの思いをもってその方にぶつかったと、真に言えて?」 私には返す言葉もありません。 「まだ闘志が残っているのなら、あなたにこれを預けるのだけど」 「と……」 闘志って、お姉様。 ああ。お姉様にとって恋は、真に戦いだったのでありましょう。 お姉様は、右手首にいつも巻いてらっしゃる真っ赤な帯留めを外されました。 それは心中なさった時に、お相手の左手首としっかりと結んでいらしたもの。 お父様がいくら捨てろとすごまれても、頑として手放さなかった激しい愛のあかし。 「そんな、それはお放しになってはいけません!」 「いいのよ。私にはもう、これがあるもの」 いたずらに笑むと、ふところから一通の文を取り出される。
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