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「リクなら分かるだろ? 昨日の夜さ、見たんだよ。ちょうど転がり落ちて、気を失う前ぐらいに。
意識が飛ぶ前って、なんか脳の中がグルングルンしてて。きっとああいう瞬間に交わっちゃうんだろうな、あっちの世界の住人と。
今なら確信できる。きっとあれは殺された女が俺に訴えてきた映像なんだと思うんだ」
「霊が、映像を?」
リクがいぶかるように声を潜めた。
「うん。自分が殺される瞬間の映像をさ、俺に見せるんだ。強烈だったんで病院で寝てる間、何度も夢で再生されたよ。それほどはっきりした映像だったんだ」
「ぜんぶ夢だったんじゃないの?」
「あんなはっきり他人が出てくる夢があるか? 犯人の顔だって、ちゃんと覚えてる。きっと何かの波長が合って、その女が俺に訴えて来たんだよ。なあ、どうしたらいいと思う?」
玉城は興奮を抑えきれず、リクの方に身を乗り出した。
「……どうしたらって言われても」
「なあリク。俺さあ、犯人探ししてやろうと思うんだ」
「馬鹿じゃないの?」
「な! なんでだよ」
玉城は思いもよらない冷ややかなリクの言葉に声を荒げた。
「まだ幻だと思ってるんだろう! でも違うぞ、俺には分かるんだ。あれは絶対人知れず殺された女なんだよ。無念で悔しくて、俺にその映像を見せてきたんだよ。こいつらなんだって。最近俺、すごく霊感強くなってきてるだろ? リクにだって分かるくらいだから、あっちの世界の相手にもそれが分かるんだよ、きっと」
リクは表情を曇らせたまま、ソファに深く座り直した。
ガラス細工のような琥珀の瞳が、玉城をじっと見つめて来る。
「誰が信じるんだよ。玉ちゃんの頭の中で再生されただけの映像を」
やっと開いたリクの口から出た言葉はやはり冷たいものだった。
「もし事実だとしても、随分昔のことかも分からないだろ? 20年とか、50年とか。その映像の人たちは死んでるかもしれない。もしかしたらとっくに解決した事件で、犯人も捕まってるかもしれない。仮に、もしその犯人にそっくりな人を見つけたとして、どうするんだよ玉ちゃん」
「それは……」
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