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「ねぇリクさん。何の話だったんですか?」
静かにゆっくり背後から近づいてきた多恵が、リクの後ろまで来たところで大きな声を出した。
考え込んでいたリクがハッと驚いたように多恵を振り向く。
その表情さえ魅力的に思え、多恵はニンマリと口元を緩めた。
初めて玉城の部屋でリクを見たときから、多恵はこの青年の美しさに魅了されていた。
世間で持てはやされるイケメンの類とはべつの、凛とした神聖なものを感じる。
それはこの青年が持つ、人並みはずれた厄介な「力」のせいなのかもしれない。
自分にもほんの少しばかりある力。 見るべきものでない者たちを見る力だ。
「いったいどうしちゃったんですかねえ、玉城先輩。さっきの話、本当だと思いますか? お酒に酔って、階段から落ちたって話。
私の知る限り、泥酔するほどお酒を飲むような人じゃないんですよね~」
こっそり後ろで二人の会話を聞いて、霊がらみの事故だったことは知っていた多恵だったが、あえてとぼけてみた。
リクは、多恵がリクの霊力に気づいているのを知らないのだ。
そのことが、多恵のいたずら心をくすぐる。
「さあ。どうなんだろうね」
興味無さそうにリクが言う。
「ねえ、リクさん知ってます?」
多恵は構わず話を続けた。
「玉城先輩、この頃霊とかよく見るらしいですよ」
「……」
リクの瞳が反応した。
「私にも、ほんの少し霊感あるから分かるんですけど、昔は全く先輩、そんな力無かったんですよ。 ここ1年くらいらしいですね、変なもの見るようになったのは。何ででしょうね。
誰か、すっごく強い霊感の持ち主が身近に現れて、影響うけちゃった……とか」
「……え」
「だとしたら、ちょっと可哀想。玉城先輩」
多恵はリクの正面に座ると、頬杖をついた。
少し青ざめて不安そうに見つめてくるリクの綺麗な瞳を覗き見て、多恵は続けた。
「やばいくらいに強くなってますね。先輩の霊感。危ないなあ~。いったい、誰のせいなんでしょうね」
窓から見える街路樹の緑が、無いはずの風にざわりと揺らいだ。
「じゃあ、長谷川さんに怒られないうちに私、仕事に戻りますね。またね、リクさん」
多恵は席を立つともう一度、目を伏せて黙り込んでいるリクに視線を落とす。
そして満足そうに口元をほころばせると、軽い足取りでラウンジを後にした。
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