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玉城は都心から離れた片田舎の国道沿いを歩きながら、無意識に後頭部の傷に触った。
まだ腫れているようだったが、触らなければ痛みも無い。
時々軽い目眩はあるが、昨日ほど頻繁ではなかった。
医者が仰々しく巻いてくれた包帯も、なんだか鬱陶しかったので家を出るときに捨ててしまった。
けれども、あの陰惨な映像だけは今も脳裏に焼き付いたまま、四六時中玉城を苦しめていた。
暗闇をつんざくような女の悲鳴と、それを取り囲む数人の影。
一人の男が何度も振り下ろす鈍器が鈍い音を立てていた。
繰り返される凶行に次第に動かなくなっていく女。
玉城は痺れた脳と体を横たえ、ただそれを見ていた。
まるでホラー映画か何かを見るように。
玉城は思った。あれはきっとどこかで殺された女性の念みたいなものが自分に訴えてきたのだと。
頭を打った拍子に、何らかの交信をしてしまったのだと。
映像はとてもザラザラしていて全体が薄暗く、その惨劇の場所が、自分が横たわる付近なのか、それとも別の場所なのか分からなかったが、殴りつけている男の顔ははっきり見えた。
それが、殺されて成仏できずにいる女の最後の記憶であり、無念なのだとしたら、自分はそれを忘れてはいけない気がした。
玉城はログハウス調の一軒家の前で立ち止まった。
昨日喧嘩別れになったリクの家は緑に囲まれ、今日もひっそりとしている。
何だかんだ言って結局はリクを頼るんだな、と自分に呆れてため息をつきながら、そのドアをノックした。
「絵を描いて欲しい?」
納戸の額の整理をしていたリクは、驚いた表情で玉城を振り返った。
「誰の絵? 玉ちゃんの?」
「なんで俺の絵を描くんだよ。違うって。犯人のだよ」
「犯人?」
リクがほんの少し眉をひそめて続けた。
「玉ちゃん、まだ言ってんの? いいかげんに諦めたら? 妙なことに首突っ込まない方がいいよ」
「頼むって! まだ覚えてるんだ。今ならはっきり思い出せるんだ、犯人の顔が。でも記憶はメディアに保存できないだろ? 俺には描き起こす絵心もないし。だからさ、リクにその似顔絵を描いて貰おうと思って。そのほうが探しやすいだろ?
な? 別にお前に一緒に探してくれなんて言ってるんじゃないんだ。迷惑もかけない。俺の説明通り描いてくれれば、それで大人しく帰るから。ちゃんと金も払うし」
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