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早口で説明する真剣な表情の玉城に、リクはムッとして返した。
「お金とか迷惑とか、そんなことどうでもいいよ。ただ訳のわからない幻に振り回されちゃダメだって言ってんだよ」
「幻でも夢でもないよ。霊視だってば! リクならわかるだろ? 霊が意思を持って、訴えてくるんだよ」
「妄想だよ。だって僕には玉ちゃんから、その霊の気配が何も感じられないし。
それにもしもそれが本当に霊視だったとしたら、それこそ厄介だ。この世に留まってる奴らには人間のような理性も善悪の概念も飛んじゃってることが多い。残ってるのは恨みつらみの念だけだ。無害な奴もいるけど玉ちゃんには判断できないだろ?
出来るだけ関わらないようにしなきゃ危険なんだ。住む世界が違うんだから」
「なんでそんなこと言うんだよ。リクは見てないからだ。殴られて叫びながら殺されて行く女性を見てないからだ。あんな場面見たら誰だって、何かしなきゃと思うから!」
「そんなこと思わなくていい。玉ちゃんは追いかけられたんだろ? 訳の分からない邪念の塊に。奴らは玉ちゃんみたいな隙だらけの波長を見つけて心に乗り込んで来るんだ。
僕はずっとそうされないように心に壁を作ってきた。子どもの頃からずっと。
一度境界線を壊したら歯止めが利かなくなる。僕らの体を媒体にされる。玉ちゃんは、分かってないんだ」
「ああ、分からない。分かりたくもないよ」
「どうして」
「お前は自分を守りたいだけなんだよ。他人はどうだっていいんだろ? 霊だけじゃない。人間とだってだ。何となく分かったよ。だから人との関わり合いも霊との関わり合いも閉ざして、嘘で身を固めてきたんだよ。自分が傷つかなければそれでいいんだ。
お前はなぁ、ただ冷たいだけなんだよ!」
そんなことを言いに来たんじゃなかった。
そう頭では思っているのに、言葉が止まらなかった。
目の前で自分に反論ばかりしてくるこの青年がとても腹立たしく思えた。
一番理解してくれると思っていた人間だったのに。
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