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リクは目をキッと見開き、唇を硬く結んでじっと玉城を見つめて来る。
そういえば、こんなに真剣に抗議してくるリクを、今まで玉城は見たことがなかった。
殺された女性の声を聞き届けてやりたいだけなのに。
自分が積極的に霊と交信することが、どうしてこの青年には気に入らないのか。
初めてリクに会った頃、玉城の前に現れた少女の霊は、リクが優しいから頼って来るのだと言っていた。
だが目の前の青年は、まるでそれを感じさせない。
誰の力にもなろうともしない。
「もういいよ、……分かった。ごめんな、じゃまして。忘れていいよ」
玉城は静かに昨日言ったのと同じセリフを言い、リクに背を向けた。
「どうする気?」
リクが不安そうに声を掛けてきた。
「どうもしない。何もできない。まあ……あの場所に行ってみればまた、何か分かるかもしれないけど」
「あの場所?」
「俺が転がり落ちた神社の階段の下。あそこで、気を失う前にそれを見たんだ。まだ……居るかもしんないだろ。俺に交信してきた霊が」
「玉ちゃん」
「ああ、もういいからリク。気にしなくていい。悪かった。もうここにも来ないから。じゃあな」
素っ気なくそう言うと玉城は振り向きもせずにバタンとドアを閉め、リクの家を後にした。
少々大人げない言い方をしてしまったが、玉城は自分が間違ってるとは思わなかった。
ただとてつもなく後味が悪い。
最後に自分を呼んだ心配そうな声がやたらと耳に残った。
「……んだよ。心配なんてしてない癖に」
少し意地悪くつぶやいてみる。
とにかく今はあの男達の顔を忘れないでおこう。
そしてまたあの女の霊が現れて何か懇願してきたら自分も動きだそう。
いや、そんな事件がここ数年この界隈で起きたのかを調べてみる方がいいかもしれない。そんな昔の犯行ではないような気がした。
その女の為というのもあるが、もしもまだ犯人がなんの罪にも問われず生きているのならそれこそ問題なのだから。
あの憎々しい男たちを野放しになんてできない。
玉城はそう強く思った。
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