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玉城が乱暴に閉めていったドアを、リクはしばらくじっと見つめていた。
指先が緊張して冷たくなっている。
ぎゅっと両手を握りしめた。
“強くなっている” と感じる。
多恵に言われるまでもなく、リクには分かっていた。
そんなもの無ければ、それが一番幸せな力。
関わってはいけない念と波長が合うことによって、その意識を取り込んでしまう厄介な能力だ。
自分はまだいい。
長い期間を経て、危険なものほど遠ざける壁を作ってきた。
けれど柔軟で優しすぎる玉城にはきっとそれができない。
隙を見せればすぐに取り込まれ、精神を脅かされる。
今回玉城を追ったのは、悪意のある念ではなかったかもしれない。
それでも肉体から離れて彷徨う悲しい魂は、人間の心身をどうしても蝕んでしまう。
現に今回もそのせいで玉城は怯え、怪我をしている。
彼らと接触し、コンタクトすることは精神を摩耗させ、混乱させる。だからこそ普通の人間にはその能力が備わっていない。
そんな力、無いにこしたことはないのだ。
リク自身、何度そう思った事か。
ザワザワと窓の外の常緑樹がゆれる。
光沢のある葉に反射した光が針のように目を射し、リクは硬く目を閉じた。
『いったい、誰のせいなんでしょうねえ』
蘇った多恵の声に、胸の辺りがズキリと痛んだ。
願ったのかもしれない。
あのとき。
自分と同じものを見、自分を理解してくれる人が一人でもいれば、楽になれる、と。
もしも、そうなら。
自分のせいであるならば、自分がするべきことは分かっていた。
少しも難しくない。
今まで何度も繰り返してきたことだから。
リクはゆっくり目を開けた。
その時。テーブルに置いていた携帯のバイブが震えた。
玉城が半ば強制的にリクに持たせた携帯だ。
これのお陰で確かに救われたこともあった。
けれど、これのせいで依頼心が強くなる。
そういえば霊感は携帯と似ていると、リクは時々思う。
奴らに用件があれば波長を合わせ、相手に受信させる。
勝手にONにして用件だけ押しつけて、用が済めば自分からOFFにする。
無遠慮で自分勝手だ。
リクは唸っている携帯を手に取った。
そして、着信の名前を見てほんの少し考え込む。
表示には『玉城』とあった。
携帯は失くしたと言ってなかっただろうか。
リクは訝りながらも電話に出てみた。
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