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「ん……落ちたときに頭打ったからかな。時々クラクラする。でも大丈夫だよ。ちゃんと病院で精密検査もしてもらって、退院のOKが出てるし。少しの間だけ記憶の混乱があるかもって言われたけど、どうってことないよ」
「……本当に?」
「本当だ」
「いったい、どんな状況だったの」
「まあ、……そうだなぁ。簡単に言えば、夜中に山道歩いてたらいきなり冷やっとした空気の境目みたいなところに入っちゃってさ。振り向いたら強面の連中が折り重なってこっちに迫って来るもんだから、とにかく逃げて、神社の階段下りようとしたら、踏み外して転がり落ちて、気を失ってるところを運良く散歩中の人に階段の上から見つけて貰って病院に運ばれた、みたいな」
「……ひどい状況だね」
リクは笑っていいのか心配していいのか分からない表情を浮かべる。
玉城はニヤリとした。
「知ってるか? 頼みもしない検査いろいろ受けさせられたのにさ、全部請求されるんだぞ病院って。あんなヤクザな商売ないよな」
「なに言ってんだよ、助けて貰ったくせに」
今度はリクは可笑しそうに笑った。玉城も笑う。
“心配すると不機嫌になる”
玉城は今日、またもう一つリクの厄介な癖を発見した。
ため息をひとつ吐き、玉城はぐるりと辺りを見回した。
昼下がりの大東和出版のラウンジは大きな窓を通して程良い光が取り込まれ、
いつも心地よい明るさを保っている。
玉城の好きな時間であり、場所だった。
そして向かいにはやっと機嫌の直ったリクがいる。
まるで狙い通りのシチュエイションではないか。
玉城には、前日から相談しようかどうしようか迷っていた事が一つだけあった。
切り出すにはちょうどいいタイミングだと思い、玉城は向かいの青年の方にぐっと体を乗り出した。
「なあ、リク」
「ん?」
「リクはさあ、例えば誰かに殺されてしまった人の霊に、犯人を捜して欲しいとか頼まれたらどうする?」
「……」
リクは大きな目をさらに丸くして玉城を見る。
玉城は続けた。
「だからな、霊が “こいつなの! こいつが犯人なの!” って、そんな映像を見せて教えて来たら、どうやって助けてあげる?」
「……何の話?」
リクは真剣な目で質問してくる玉城を、困惑したように見つめた。
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