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「うちの人は――いえ、ミドルトン卿は、病気で寝込んでますの。代わりに息子がご挨拶しますわ」
男爵が病気?
本当だろうか。本当だとしたら、彼はこの屋敷にいるってことか?
ぼくと姉さんは一瞬、視線を交わした。
眼鏡の奥で金色の瞳がきらりと光る。なにか情報がありそうだ。
男爵夫人は卓上鈴を鳴らし、メイドを呼んだ。
「ジュリアンを呼んできて。お客さまにご挨拶するように」
やがてメイドに案内されて入ってきたのは、ふたりの青年だった。
「こちらがわたしの息子、次のミドルトン男爵、ジュリアン・フランシス・ウェイクスリー・オブ・ミドルトン。隣はジュリアンの友人で、ダレストン子爵のご嫡男、エドガー・シンクレア卿」
ジュリアンは息を飲むほどの美青年だった。銀に近いプラチナブロンドにわすれなぐさ色の瞳。ふつう、こんな淡い色の金髪は大人になるにつれて色が濃くなり、茶色がかってくるものなのに、彼は奇跡的に天使のようなベイビーブロンドを保っている。
線が細く、彫刻のように整った容貌は人間くささをほとんど感じさせない。肌はやや青白いが、かえってそれが彼の高貴さを際だたせていた。
「ね、ハンサムでしょう? わたしの自慢の息子なの。こんなにハンサムな子は外国の王子さまにだっていやしないわ。ほんとに、誰に似たのかしら」
……奥さま、それはあなたです、と言うべきだろうか。少なくとも男爵夫人はそれを期待しているようだ。
だが本当に、男爵夫人のような母親からどうしてこんな息子が生まれたんだろう。ローレンス卿の血筋だろうか。
そして隣に並ぶエドガー・シンクレアに、ぼくは見覚えがあった。サリーの葬儀に来ていた男だ。
ややくせのある黒髪を肩につくほど長く伸ばして、彫りの深い顔立ちに暗いブルーの瞳。ジュリアンはあまりに美形すぎて近寄りがたささえ感じるが、こちらは世慣れた放蕩者の雰囲気を漂わせ、いかにも若い女にきゃあきゃあ言われそうなハンサムだ。
「シンクレア卿は、実はダレストン子爵から勘当されかかっているという噂です」
丸顔を精一杯のしかめっ面にして、ハーグリーヴス氏が言っていたことを、ぼくは思い出した。
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