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時間が経つのが凄く早く思えた。気がつくと辺り一面がオレンジ色に染まっていた。父親が立ち上がり眩しそうに目を細めながら、 「ほら、竜。凄く綺麗な夕焼けだよ。」 俺は父親が見ている方へ顔を向けた。 …その瞬間息ができなかった。空も雲も山も空気までもがオレンジに染まっていて、涙が出そうになった…。父親を見ると泣いている様だった…。父親が、俺をしっかりと見つめて、 「俺は、少しの間家に帰れない…。お母さんは泣き虫だから竜がしっかり支えてやってくれ…。」 俺はとっさに父親にしがみついて大声で、 「嫌だ!せっかく仲良くできたのに!色々話したのに!お父さんの事大好きなのに!」 俺は泣き叫んだ。 「頼む…。」 と、かすれた声だけがその場に響いたようで、時間が止まった様にそれ以上何も言え無かった…。 そのまま2人は何も話す事もなく家へと向かった。俺はすねたようにうつむいたままでいた。父親が玄関の前で急に足を止め、俺の事を苦しいくらい抱き締めた。俺は、それを力いっぱい振り払い、 「お父さんなんか、大嫌い!勝手にどこへでも行けばいいんだ!」 父親の顔が大きくゆがんだ…。 俺はかまわず玄関のドアを開けると、知らない男が3人立っていた。その男達が父親に近づいて行くと、父親は静かに頭を下げ両手をさしだした。1人の男が静かに手錠をかけた…。そしてそのまま父親はそいつらに連れられてパトカーに乗せられた…。パトカーはサイレンを鳴らしながら走り去って行った…。俺は一瞬何が起きたのかわからず、スローモーションのように流れる光景だけをただ呆然と見ているだけだった…。 ふと我に返り周りを見ると近所の野次馬達が俺を見ながらヒソヒソと何かを話している。俺は咄嗟にそれを振り払う様に玄関へと向かうと母親が泣き崩れているのが目に入ってきたが声もかけずに二階の自分の部屋のベッドに潜り込んだ。色々な事が頭の中でぐるぐると回りはじめる…何故かブルブルと震えていた。今朝の2人の泣きそうな顔、父親と行った山、そこで見た夕焼け、それから父親に嫌いだと言った時の父親のゆがんだ顔。その時まだ幼かった俺には、なぜ父親が連れて行かれたのか全くわからなかった…。色々考えているうちに疲れていたのか知らない間に眠ってしまった…。
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