第1章

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「火星転送」  彼の話だと、家族にも云えない、国家機密の宇宙開発らしい。  だけど、私にはチラッと洩らした事があった。  「絶対に内緒だよ。火星に行く事になった。もしも、連絡が付かなくなったらこのファイルを開いて見てよ。」  「火星なんて、テレポーテーションで直ぐに行き来出来る距離じゃない。もしもなんて、無いわよ。」  数日後の彼からの連絡は、火星からだった。  「なんて事、無いじゃない。」  「そうだね。でも、火星との直通連絡の事は、絶対に秘密だよ。」  「判ってるわよ。そっちの生活は、順調なの?」  「順調さ。一週間で一旦戻る事になってる。」  「一週間も?長いわね。」  「すぐさ。」  慌ただしく動いている彼にとってはすぐでも、私には余に長い。三日でパソコン画面の顔だけの対面では物足りなくなってきた。  でも、表情が細かく見られるのは新鮮だった。  もぐもぐと、何かを食べてる顔、こんなに可愛かったんだ。  笑うと首を傾げるクセ。  画面越しの触れそうで触れない状況のせいか、地球にいた時とは比べ物に成らない程、我ながら不思議な位、会いたい気持ちが膨らんでいく。  長い長い一週間が、やっと来た。  宇宙センターにテレポーテーションが完了して、報告業務が終わったら、連絡が入る事になっている。  予定では夜の九時。  既に過ぎている。来ない。  起動させてたままのパソコンでメールを送っても返事が来ない。  こっちからは起動してはダメと言われてた、通話アプリを使っても繋がらない。  火星帰り直後じゃやっぱり、疲れてるのかなと、思いもするけど、約束を破る彼じゃないし、何より、会いたい気持ちが抑えられない。  もしもなんて、考えたくないけど、連絡が付かない時に開くファイルを、開けてみる。  そこには、テレポーテーションシステムへ密かに繋がるアクセスコードが書かれていた。  リンクをたどり、アクセスを開始すると、テレポーションカプセルが映し出された。  画面下には転送状況がデータ表示された。  その表示を見て、私は凍りついた。  「転送エラー。テレポーテーション八十パーセント完了時点でフリーズ・・・」  「え?」  ちらちらとするテレポーションカプセルを良く見ると、そこには、八十パーセントまで転送された彼が居た。  「あ、頭が無いっ!」
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