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私がその存在を知ったのは十二歳の頃だった。
イギリスの魔術師養成機関“時計塔”に入学して間もない頃、何気なく立ち寄った図書館の書棚から降ってきた一冊の本──それとの出会いが、多分、私の人生における分岐点だったのだろうと今になって思う。
生まれも育ちも日本。
純粋な日本人の私。
“時計塔”の中では東洋人に対する差別や偏見はあまりなかったけれど、血筋や人種とは関係なく、日本人でありながら良い成績を修める私への差別は少なくなかった。
別に気に病むほどのことでもなかったのだけれど──それは、まるで指先に刺さった棘のようにチクチクと心を突き刺して──少しだけ、嫌だった。
何故そんな目で私を見るの?
生まれや人種がそんなに大切なの?
どうして純粋に私を評価してくれないの?
そんな、言うなれば違和感のような気持ちが常に蟠(わだかま)っていた。
私だって。
私だって本当は──……
“時計塔”にいた時からもう十二年が経つ。
故郷に戻った私はまたとない好機に恵まれていた。
今こそ自分を証明する最大の機会。
この魔術師戦を生き抜き、勝者となることができたなら、私はきっと誰からも認められるだろう。
これまで受けてきた不平等な評価を覆すことができるのだ。
だから私は迷わない。
左手の甲に浮いた刻印を見つめながら、私は一つ息を吐いて、契約の言の葉を紡ぎ出す。
「──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に──」
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