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『貴方が私で、私が貴方なのです』
私の前に現れた人物は、私が十年前に遭遇した事故で記憶を失った際に、本来は貴方だったのに私になってしまったと主張した。
『病院と警察の連絡上の不手際で、同じ事故に巻き込まれて同時に記憶を失った二人の人物を取り違えて、貴方が私となり、私が貴方となったのです』
『…例えそれが本当だとしても、私は既に十年間私として生きてきましたから、今更別の人生を歩むつもりはありませんけれど、貴方はどうしたいのですか?』
私の前に現れた人物は頷いて。
『実は私も貴方と同じ意見です、私も貴方も天涯孤独の身で、元々家族も親戚もいませんでしたから、別にこのままでも構わないとは思いますが、一応貴方の意思を確認しておきたかったのです』
私はかつて私だった人間になった、貴方に対して頷いて。
『では、お互いにこのままでいいのですね?』
『ええ、貴方に異存が無ければ、私は私を、貴方は貴方として生きていって、問題は無いと思います』
私は最後に、かつて私だった貴方の姿を目に焼き付けて。
『教えてくれてありがとうございました、かつて私だった貴方』
『いえ、余計な事を言ってしまったかも知れませんね、かつて私だった貴方』
二人は、かつての自分の姿に別れを告げて、別々の道へと歩み去った。
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