The truth

21/40
前へ
/40ページ
次へ
どうして『叶わなかった』のか。 それは佐伯さんが、文子さんを迎えに来たから。 吉田先生は文子さんを返したくはなかった、だけど……。 佐伯さんがどれだけ文子さんを愛しているか、想いの深さを知って身を引く決意をしたのだそうだ。 「佐伯さんは、文子さんを失いかけて初めて文子さんが必要だと気付いたそうだ。文子さんを幸せにすると誓ってくれたから、私は引くべきだと思った。それから私は文子さんのことは忘れるよう努めたつもりだったけど、いとこ同士ということもあって嫌でも情報が耳に入ってくるんだ。そして翌年の夏、文子さんに子どもが生まれたということを知った」 「それって、俺のことだよな。父さん、もしかして俺は…」 ずっと黙って話を聞いていた主任が、我慢できなくなったように先生に問いかけた。 私の中にも、もしかしたら…っていう思いが芽生えている。 先生は一度、文子さんに視線を移したけど…文子さんは俯いたままだ。 そして今度はきちんと主任に向き直り、はっきりと告げた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加