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いつもと変わらない学校の帰り道。俺はスマホに届いた新作ゲーム情報に心を躍らせていた。
童顔な上、眼鏡に低身長とコンプレックスが多く、部活動なんか馴染めない。色々悩んだ挙句、最終的にほぼ活動のないボランティア部に在籍し、幽霊部員として日々を淡々と過ごしていた。
そんな自分の現状を思うと、先程までのワクワク感が減った。
気を直して、家から近いゲーム取扱店へ急いだ。
これがなにも変哲の無い俺の日常。
だけど、その日は違った。
角を曲がった先、クラクションの音と共に俺の視界は一転した。
鈍い音と生ぬるい液体。鼻につく匂いと追ってきた痛みに、俺の身体がどうなってしまったのか察しがつく。
(やってしまった)
やり終えてないゲームのタイトルが次々と走馬灯の様に駆け巡っていく。
(死ぬのかな……)
だんだん痛みが鈍くなっていく。きっとこれは脳が麻痺しているからだ。それに……
視界が霞み、夢か現実かもあやふやになってきた。
(死ぬときはこうもあっけないのか)
もっともがいてもがいて、苦しむものだと思っていた。けど、意識が戻り視界がはっきりしたと 時、俺はもう一人の俺の上に立っていた。
(幽体離脱? いや、魂が抜けたのか)
空から差し込む眩い光。あれはきっと天国への道。俺がこれから向かう場所は。
できれば、新作ゲームをプレイしてから死にたかった。いや、それで死んでも未練だけ残っちゃうか。
(どんなときでも、死んだら後悔しか残らないよな。さよなら俺。できれば来世もゲーム三昧の日々を送りたいぜ)
自分の死に顔へさよならを告げ、光が差す彼方へ昇っていく。
「本来でしたら貴方はまだ長い時を生き、家族を持ち、有意義な老後を送る人生でした。それを潰した相手を知りたくはありませんか?」
「へ、何その話」
天使の姿で悪魔の様に微笑む女性の言葉に、浮上する身体が地へ戻った。
「私は貴方の味方。共に愚行を行った者へ罰を与えに参りましょう? 」
コテッと首を傾げ、俺の身長を越す大鎌を目の前に振り下ろす。
(これ逆らったらダメなやつだ)
死してなお死の恐怖を感じ、頷き言われるまま後をついて行った。
この選択が間違いだったなんて、今の俺にわかりっこなかった。
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