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ドナー
つい最近の事だ。
ノーベル化学賞を取った分子生物学の権威
和嶋博士が逮捕された。
罪状は殺人。
殺されたのは一人娘のレミ、死因は焼却処理されていて断定できなかった、まだ12歳で重度の白血病を患っていたらしい、動機はその辺か?
離婚して母は無く、父子二人で長いこと暮らしていた。
逮捕当時、博士は相当気が動転していて訳の解らない言葉を繰り返していた。
「あれは猿だ、あれは猿だ」
と、狂気にかられて暴れまくっていたそうだ。
現在、博士は警察病院の特別病棟で拘置されている、依然として半狂乱で拘束衣が外せないそうだ。
ここまでは周知の事もあると思うが、これまでに送った調査員の誰一人として博士は心を開かなかった、君ならあるいはと思い白羽の矢を立てた。
博士の殺人動機と事件の解明を君に依頼する。
Dr.和嶋紗栄子 様
「今更、私が行ったからって‥‥」
メールで着た依頼文を読んで、そう呟いた。
もと夫でもある殺人犯の身辺調査とは。
離れて暮らしていたとはいえ、実の娘を殺された母親にこんな頼み事をするとは、私を何だと思っているのだろうかと、断ることも出来たのだが。
渋々承諾したのは、私も知りたかったのだ、狂気の真実を。
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