ドナー

2/4
前へ
/4ページ
次へ
   ドナー つい最近の事だ。 ノーベル化学賞を取った分子生物学の権威 和嶋博士が逮捕された。 罪状は殺人。 殺されたのは一人娘のレミ、死因は焼却処理されていて断定できなかった、まだ12歳で重度の白血病を患っていたらしい、動機はその辺か? 離婚して母は無く、父子二人で長いこと暮らしていた。 逮捕当時、博士は相当気が動転していて訳の解らない言葉を繰り返していた。 「あれは猿だ、あれは猿だ」 と、狂気にかられて暴れまくっていたそうだ。 現在、博士は警察病院の特別病棟で拘置されている、依然として半狂乱で拘束衣が外せないそうだ。 ここまでは周知の事もあると思うが、これまでに送った調査員の誰一人として博士は心を開かなかった、君ならあるいはと思い白羽の矢を立てた。 博士の殺人動機と事件の解明を君に依頼する。 Dr.和嶋紗栄子 様 「今更、私が行ったからって‥‥」 メールで着た依頼文を読んで、そう呟いた。 もと夫でもある殺人犯の身辺調査とは。 離れて暮らしていたとはいえ、実の娘を殺された母親にこんな頼み事をするとは、私を何だと思っているのだろうかと、断ることも出来たのだが。 渋々承諾したのは、私も知りたかったのだ、狂気の真実を。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加