ドナー

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彼に会うのは何年振りだろう、レミとは月に一度お見舞いに行っていたが、その時も会うことはなかった、お互い様だが、科学者ほど、冷めた人間はいないと思う。 「さ、紗栄子か、良く来てくれた」 和嶋は落ち着いた様子で対応した、聞いていた話と違った事は気に止めなかった。 私が和嶋に向けた最初の言葉はこうだった。 「‥‥レミになんて事を」 「ち、違う、あれはレミじゃない」 これは聞いていた通りとはいえ、憤りを感じた、言い逃れのつもりだろうか。 「き、聞いてくれ紗栄子、お前が来るのを待っていたのだ、あの死体は、被験体の猿だ」 腹が立ってしょうがなかった、焼け焦げたその死体は検死結果でも遺伝子判定でも娘のレミと一致した。 「治療のためといって娘を手離したのは間違いだったわ」 「ち、違うんだ、聞いてくれ、オレは人工RNAの生成に成功したのだ」 「嘘でしょ」 信じられなかったが、私も研究者の一人として、その可能性だけは否定できずに質問した。 「人工的にドナーを作ったってこと?」 理論上、任意のRNAが作れるのなら、DNAさえあればどんなタンパク質も作る事が出来る、つまりどんな人体パーツでも再生、生成可能だ。 「そうだ、紗栄子、解るだろレミの骨髄適合者は見付からない、だから私は作ったのだよ、レミのDNAを元に人工RNAを使って検体の猿の骨髄をレミの骨髄にしたのだ」 有り得ない、頭ではそう思っていても、どうしても否定できずに、私は口を噤んだままだった。 「実験は成功し、完璧なレミの骨髄が猿から生成された、私は歓喜に震えた、これこそが私の研究の集大成、ノーベル賞など副産物に過ぎない」 レミこそが全て、彼のレミへの愛情は本物だ、それは知っていた、だからこそ解らない、なぜレミを、最愛の娘を殺害したのか。 「移植後、レミは急激に健康を取り戻した、しかし変化が見られたのはそれだけじゃなかった、被験体の猿に不可思議な事が起こったのだ」 私は息を大きくのんだ。
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