第1章

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 今朝浮かんできたのも、そんな欠落の一つ。  学生の頃にある約束をして、今日がその約束の日だと気付いたまではいいが、それが何の約束だったか思い出せない。  とりあえず行ってみれば分かるかもと思い何年かぶりに大学を訪れると、日曜だというのに校舎のそばで女性が待っていた。  確か彼女の名前は絵梨子。サークルの後輩だったはずだ。  絵梨子は記憶と変わらない、ショートボブにメガネの地味な格好。俺に気付くと文庫本から顔を上げ、幸薄げな笑みを浮かべる。 「覚えててくれたんですね先輩」  そう言うからには約束の相手は彼女なのか。
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