第1章1「預言を預言する預言」

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 巫女になど、これっぽっちも向いていない。  自分自身、自覚している。  戦や政治、金と地位。  少女シビュラはそういう血沸き肉踊る武人………統治者………になってみたかった。  力なき人間がいかにすれば、戦に勝てるのか?  金をどのように分配すれば、都市は潤うのか?  人を集める方法は?  少女シビュラの空想は、その辺の童女が抱く夢よりも血の匂いが立ち籠めていて、欲に塗れた生々しい悪知恵ばかりだった。  喋る相手を驚かせ、尊敬を抱かせ、心を操りたい。  少女シビュラは森の洞窟で暮らすのが長過ぎて、老女シビュラから聞いた話や、与えられた貴重な書物に毒されていた。  足りない身体と、遠過ぎる未来は、見事に毒っ気のある少女を育て上げていた。  神の言葉や未来の出来事を預言するような『神託』など、聞こえもしない。  しかし老女シビュラは神の声は『いずれ聞こえるようになる』としか言わず、素質に欠けているのが明白な少女シビュラに、躾を与え、根気強く『シビュラ』にするための訓練など、各国の文字や言葉の勉強を教え続けている。 (ババアは耄碌してやがる) (哀れなババアなのかもしれねえなあ………)  時たま、少女シビュラは師である黒衣の老女の姿に、そんな気持ちになりもする。  石を蹴れば、洞窟に音が反響する。  鳥の鳴く声がして、木々のざわめきで足が冷える。  石の褥(しとね)で寝て、老女の与える食事を摂る。  雑用みたいに扱われて、老女に言われるまま、食事の準備と片付けをする。  老女の世迷い言に付き合わされて、唯一の弟子として暮らして来た。  森の奥底にある洞窟暮らしは、好奇心旺盛な少女には、余りにも不毛だった。  不毛のうちに、少女の心は空想だけ逞しくなりつつあった。
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