第1章1「預言を預言する預言」

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 男に会いたい。  それが少女シビュラの脱走計画の、本当の目的だった。  一目、本物の男を見てみたかったのだ。 「見れなかったな………」  洞窟に差し込む陽射しに欠伸(あくび)を一つ、少女シビュラは頬杖を付く。  このシシリアは島になっているなんて聞くけれど、海を間近に見たことがない。  この世界には、『男』がいる。  本当に『男』がいるなら、見てみたかった。  書物に出てくる男たちの勇壮さに鼓動が早くなり、愚かさにくすりと口角が上がってしまうのだ。  先が読めてしまいながらも、ときに読めない行動に出る男たちの不可解さは、男を実際に見ても触ってもいないのに、何処か憎めなくって、愚かで、可愛いと思える。  間近に男がいる世界。  もしも一人になったら、そんな世界を見に行きたい。  好奇心に比例するように、悪道のみならず、教えられた勉強には人一倍の努力をしてきた。  ギリシャ語をはじめ、外国語であろうと老女シビュラが教える言語は、一語一句漏らさず吸収してみせた。世界の風俗、民族分裂の歴史、ローマ帝国の歴史、ギリシャ人の歴史、叙事詩、伝承、神話………。  けれどシビュラになんて、なる気もない。  ひとつを知れば、十も、二十も、疑問が沸き上がるから、そうしているだけ。  更なる欲が生まれたから、従うだけ。  読解してみたいだけのこと。
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