1人が本棚に入れています
本棚に追加
男に会いたい。
それが少女シビュラの脱走計画の、本当の目的だった。
一目、本物の男を見てみたかったのだ。
「見れなかったな………」
洞窟に差し込む陽射しに欠伸(あくび)を一つ、少女シビュラは頬杖を付く。
このシシリアは島になっているなんて聞くけれど、海を間近に見たことがない。
この世界には、『男』がいる。
本当に『男』がいるなら、見てみたかった。
書物に出てくる男たちの勇壮さに鼓動が早くなり、愚かさにくすりと口角が上がってしまうのだ。
先が読めてしまいながらも、ときに読めない行動に出る男たちの不可解さは、男を実際に見ても触ってもいないのに、何処か憎めなくって、愚かで、可愛いと思える。
間近に男がいる世界。
もしも一人になったら、そんな世界を見に行きたい。
好奇心に比例するように、悪道のみならず、教えられた勉強には人一倍の努力をしてきた。
ギリシャ語をはじめ、外国語であろうと老女シビュラが教える言語は、一語一句漏らさず吸収してみせた。世界の風俗、民族分裂の歴史、ローマ帝国の歴史、ギリシャ人の歴史、叙事詩、伝承、神話………。
けれどシビュラになんて、なる気もない。
ひとつを知れば、十も、二十も、疑問が沸き上がるから、そうしているだけ。
更なる欲が生まれたから、従うだけ。
読解してみたいだけのこと。
最初のコメントを投稿しよう!