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洞窟に老女シビュラが戻って来た。
使いの者と話して来たのだろう。
この老女シビュラの噂を聞いて、遠方から来る者も多い。
今回の使いも、『託宣のシビュラ』を遠方から尋ねたい者なのだそうだ。
少女シビュラは『遠方の者』に興味津々だ。
しかし老女シビュラの考えは違っていた。
「相手の求めに応じられないため、断りを入れました」
「えー。何でだよ」
「政治についての際どい問いを神に求めようとしているからです」
老女シビュラは、行う託宣について、予め相手に問うシビュラで有名なのだ。
有名、無名に関わらず、託宣出来ぬ者には与えぬ。
これが彼女の信条だった。
それでも、老女シビュラを頼る人が絶えないのは、伝説的な噂に縋りたいからだろう。
………やれ、全世界を流浪してきただの。
………やれ、なにがしの国王の娘だっただの。
あることないこと、この黒衣の老女シビュラについての出鱈目な伝説を信じている者も少なからずいる。
「神様には政治がわかんねえのか?」
「さて、どうでしょう」
「外の世界をババアが知らねえから言えねえんだろ?」
「神の託宣は神の託宣。私の言葉では御座いません」
少女シビュラは世間話をしながら、それと分からぬよう、答えを老女シビュラから探り出そうとしていた。
その尋問を際どくかわしながら、老女シビュラは胸中で嘆息する。
ああ。
これでは、少女シビュラを美顔で慢心させないようにと配慮して人に会わせないようにした意味がない。
この子は、外に………男の世界に、憧れてすら、いる。
老女シビュラは少女の好奇心を、とっくのとうに見抜いていた。
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