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「いいですか、貴方は〈宣託する者〉たり得ます。
何故ならアポロン様から私がそのように宣託されたからです。
大嵐の日でした。
海鳴りは叫び、シシリアは猛り狂う一頭の野獣のようでした。
貴方は大いなる天災を引き連れて、産まれた唯一の子です。
私は嵐が静まるや否や、港町へ走りました。
粗末な家の門を叩き、事情を説明しました………今にも、くびり殺されそうになっていた貴方を譲り受けたのはそういう理由です。
アポロン様の予言は貴方の誕生を言い当てたのですよ」
「ふあーあ。眠くなるわ。三文芝居もいい加減にしろよクソババア。
けっ。
耄碌してんじゃねえのか。
あたしにさあ、宣託なんて出来っこないじゃん。
そこらで産み捨てられたあたしにゃ、無理だっつの。
そこいらで野垂れ死んだ方がまだ ………いっ」
引っ叩かれた。
老女とは思われぬ、激しい力の行使だった。
少女は酷く頬が痛む。
「水汲みに行っていますから、そこにある手本を書き写しているのですよ」
けれども、一人残された少女シビュラはペンを取らず、薄らぼんやり、洞穴の外側にある鬱蒼とした森の枝葉を見詰めていた。
洞窟がしんと静まり返ると、山の向こうで飛び立つ鳥たちの羽ばたきや、地下深くで眠る虫のさざめきまでもが、うるさく聞こえてくるようだった。
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