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そしてついに今日、洞窟からの脱走を計ったのだ。
だがどうしたことか老女シビュラは少女シビュラの行く先に先回りして、立ちはだかっていた。
まるで、先読みでもしたかのように。
逃げ出した理由を追及された少女シビュラは、苦し紛れに『母を捜しにいく』と言った。
それなら、道理も通るだろうと。
『あたしは老女シビュラの娘に会いにいくだけだから許して欲しい』と。
すると老女シビュラは事も無げに『貴方は捨てられ子だったのを私が引き取りました』と言い放ったのだ。
突然の告白に目を白黒させたのも一瞬。半べそになりながらの、老女シビュラの全否定が始まっていた。
悲しいのか、怒りたいのか、少女シビュラは泣いていた。
泣きながら、叫んでいた。
作戦の失敗から苛立ち紛れにくちばしを出してしまったので、もう引っ込みがつかないのもあったのだろう。
「人の気持ちも知らないで! どうして教えなかったんだよ!」
老女シビュラは答えず、二の句を継がせず少女シビュラの首根っこを掴んだ。
「やめろよ! やめろってば! 放せよお!」
シワだらけの皮膚と、肉の削げ落ちた骨しかないような身体の、何処にそんな力があるのだろうか。あっという間に少女シビュラを抱え、泥だらけになった服の裾を絡げると、手の平を天高く振りかぶり、リズムよく剥き出しの尻を叩き始めた。
逃げたくて精一杯もがいても、青年にでも折檻をされているような圧倒的な力の前には、成す術もない。
子供にする躾をされる屈辱に、少女シビュラの怒りは頂点に達し、奇声にも近い声を張り上げる。周囲に広がるのは閑散とした森ばかり。無駄と分かると急にしおらしくなって、目をきつく閉じて「ごめんなさい」を繰り返し始めた。
悔しさと、屈辱とで、涙が流れて、止まらない。
そこでようやく老女シビュラは手を止め、表情から険を消し去り、聖女の顔(かんばせ)で少女シビュラの服を整えてやった。
「こういうときは、泣くのです。怒りも、憎しみも、悲しみも、貴方を救ってはくれません。貴方が不平不満を言ったところで、万物は変えられません。涙を流す方が、よっぽど賢く、世界を改革できる方法ですよ」
「あたしは、何の為に生まれたんだ」
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