第1章1「預言を預言する預言」

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 咄嗟の言質を聞いた途端、少女シビュラは破顔一笑、ゲラゲラと野卑な笑い声を上げて、鬼の首でも取ったかのように得意げになって喋り出す。 「は。ババア。シビュラったって、なんてこたァねえなァ!  アッハハハハハハ!  神託なんぞ、存在しねえ!  やっぱりか! やっぱりだ!  あんたみたいな平凡な女が巫女で、神はおわしますってかッ!  そんなら、あたしのが余っ程、神のお気持ちが分かるってもんだぜ、この偽巫女!」 「無礼な!」 「方法論で、解決出来るやり口で、私を見付けたな。  あんたさ、霊験、落ちたんじゃねえの?  アポロン様も泣くぜ?  ハハッ、ヒャハハハハハハハハハ!」  野猿が降りたかのように、森には少女シビュラの高笑いがこだまする。  睨み合う二人の女は、老いも若いも、揃いも揃って核心だけはおくびにも出さなかった。老女は方法論を隠し、少女は方法論を見付けられていない、自分自身の知恵の足りなさを隠した。  牽制し合う、女と女。  あたかも、まるで母と娘がそうするように、二人の『シビュラ』は相手を見詰める威圧だけで語り合う。  老女は少女の強さに安堵し、辟易する。  少女は老女の狷介さに激怒し、詮索する。  小狡賢く、周到に、少女シビュラは老女シビュラの虚をつくタイミングを待っていたのだ。一筋縄では行かない百戦錬磨の先達シビュラと渡り合う生き方を、この少女シビュラは老女との二人暮らしのなかで自然と身に付けていた。 「貴方がそう思うのならば、そうなのかもしれません」  憮然とした老女シビュラの態度に、少女シビュラは笑いが止まらない。 「くっくっ。連れねえなあ。  冥王ハデス様に呼ばれる御身分だと、安い先見で子どもに嘲(あざけ)られるんだから、笑えねえなあ、クソババア」 「その間抜けな喋りが格好良いと思っているあたり、貴方はまだまだ若い。答えなど、見付けられようもありませんね」 「あんたに言われなくたってな、あたしは勝手に見付けて来る。  あたしはシビュラになんかならなくたって、先見をしてやるんだ」 「そのような態度をしているから、アポロン様の神託を未だに降ろせないのですよ」 「シビュラになるかどうかは、あたしが最後に決めることだ」  少女と老女は連れ立って洞窟への帰路を歩いていく。  その背中は、何故だか母娘のように似た動きをしていた。
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