第1章1「預言を預言する預言」

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 シシリアは古めかしい思想を色濃く残していた。  この時代のシシリアにおいて、女性の権力は、認められてなどいなかった。  女性は結婚しなければなるまい。  子供を作らねばなるまい。  家族における地位は男の下。  地位の貴賤に関わらず恋愛には女性本人の意思が必要不可欠で、女性の合意無しには結婚は出来ないというのだが、結婚制度にはまだ家父長制の奴隷的な常識が植え付けられている。  本だけで見聞きしている世界に、少女シビュラは憧れながら、もう早くも絶望をしていた。  曖昧な風俗意識のみが行動規範となり、常識として受け入れられてしまっている現状は、少女シビュラに取っては、ほとほと忌まわしいもので、そんな外の世界に出て行った自分を、女として男を支える自分は想像ができなかった。 「あたしは男すら、見たことねえってのに………」  託宣を与える老女シビュラが託宣を行う際や、他の者が依頼に来る時にも、少女シビュラは洞窟の奥底に隠れていなければならなかった。  男の声を聞くことはあっても、男そのものを見たことがない。  それよりもむしろ、老女シビュラ以外の人間すらも、目視した事がなかった。  病気をした事もなければ、人を頼らねばならぬ状況にさえなっていないからだろう。  どんな人間にも徹底的に『霊力に関わるため』会わせて貰えない………。  物心つく前から老女シビュラに育まれて、少女シビュラの世界は、他の人間はいないものとして育って来た。  閉じ込められて、抑圧されて、少女の好奇心は外にこそ向いていた。  同時、自分が外の世界における『女』だと知って、ガッカリもしていた。  少女シビュラは、社会を動かすものになりたかった。
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