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シシリアは古めかしい思想を色濃く残していた。
この時代のシシリアにおいて、女性の権力は、認められてなどいなかった。
女性は結婚しなければなるまい。
子供を作らねばなるまい。
家族における地位は男の下。
地位の貴賤に関わらず恋愛には女性本人の意思が必要不可欠で、女性の合意無しには結婚は出来ないというのだが、結婚制度にはまだ家父長制の奴隷的な常識が植え付けられている。
本だけで見聞きしている世界に、少女シビュラは憧れながら、もう早くも絶望をしていた。
曖昧な風俗意識のみが行動規範となり、常識として受け入れられてしまっている現状は、少女シビュラに取っては、ほとほと忌まわしいもので、そんな外の世界に出て行った自分を、女として男を支える自分は想像ができなかった。
「あたしは男すら、見たことねえってのに………」
託宣を与える老女シビュラが託宣を行う際や、他の者が依頼に来る時にも、少女シビュラは洞窟の奥底に隠れていなければならなかった。
男の声を聞くことはあっても、男そのものを見たことがない。
それよりもむしろ、老女シビュラ以外の人間すらも、目視した事がなかった。
病気をした事もなければ、人を頼らねばならぬ状況にさえなっていないからだろう。
どんな人間にも徹底的に『霊力に関わるため』会わせて貰えない………。
物心つく前から老女シビュラに育まれて、少女シビュラの世界は、他の人間はいないものとして育って来た。
閉じ込められて、抑圧されて、少女の好奇心は外にこそ向いていた。
同時、自分が外の世界における『女』だと知って、ガッカリもしていた。
少女シビュラは、社会を動かすものになりたかった。
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