12人が本棚に入れています
本棚に追加
「奈々ちゃんもう7時よ、間に合うの?」
母のあったかい声がリビングから聞こえる。
(よし、ピアスはこれにしよう)
支度を終えてリビングに向かうと
「あら、奈々ちゃん今日は準備が早かったのね」
母の不思議そうな顔はこの短い期間に二回目だった。
「頂きます」
母の手料理が大好きだ、この手料理を食べるとなんだってできそうな気がしたんだ。
「奈々ちゃん今日からはお弁当にする?」
「いや、外でちゃんと食べるから大丈夫」
だって今日は桜井さんとご飯を食べる約束をしたから・・・
「行ってきます」
私の久しぶりに元気な姿を見た母は
「奈々ちゃん今日はなんだか楽しそうね、髪の毛も巻いて本当に人が変わったようね、気を付けて行ってらっしゃい」
母のにっこりした笑顔を見て、玄関のドアを開けた。
満員電車に揺られながら昨日の夜のラインを見ながらこの連日の夢みたいなことを考えていた。
少し前まで、男になんかまったく興味がなかった、いやなかったんじゃないまた誰かを好きになって裏切られるのが怖かった。
ちょうど二年前の夏、私は幼馴染の晴樹の同じ会社の折田信一という男と付き合っていた。
見た目は今風の細くて色素の薄い中性的な顔をしていた。
折田はいい人だった、本当にいい人だから騙されてることなんて知らなかった。
どこに行っても女の人ににこにこ愛想を振りまく、
どこに行っても連絡先を聞かれていた、
それぐらいじゃなんとも思わなかった、
でもさすがに折田の家に帰ったときに
知らない女とベットで横になって
「おかえりなさい」と笑顔で言われた時には涙も出なかった。
何をしてるの?と聞けば
「だって彼女が寂しいから抱いてほしいといわれたから」
そう言われた瞬間、この人は優しい人だから何も罪悪感がないんだと。
あの瞬間から、私は男の人が苦手だった。
どんだけ優しい人も、きっと心には何かを抱えてきっと傷つけてくるんだと。
2年前のあったかいあの夏の日、私は公園で折田からもらった手紙を見て泣いていたあの時の事を桜井さんは言っていたんだ、何かの資料を見て泣いていたと・・・。
最初のコメントを投稿しよう!