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折田からの手紙は今でも鮮明に覚えている。
朝の電車の外の風景を見ながらあの日もらった手紙の内容を思い出していた。
「奈々ちゃん、君は僕に言ったねあなたは優しい人ね。人にやさしくできる人は強い人なのよって。奈々ちゃん、それはずっと僕も思っていた、でも奈々ちゃんのいままでありがとうの言葉で初めて気づいたんだ。本当に涙が溢れ出て、あぁ、僕はきっとみんなに愛されたかったんじゃなくて、奈々ちゃんだけに愛されたかったんだなって、今更気づいたって遅かったね。奈々ちゃん、次出会う人には裏切られないでね」
こんな薄っぺらな言葉を並べるような奴を一瞬でも好きだと感じた自分がばかばかしくて悔しくて泣いたんだった。
それからの二年はがむしゃらに仕事をした。
恋だの愛だの、結婚だの出産だの旅行だの
新しい新作のワンピース、バック、靴だの
周りが言う女の子らしいものに目もむけずに、
ひたすら仕事での地位を作り上げるために
がむしゃらだったなと思い出しながら
ちょっとだけクスッとして会社のある恵比寿駅に到着した。
「おはようございます」
少しだけ足取りが軽かった。
「こんなに元気なこと今まで一度もなかったからー本当に何もなくて安心しました」
朝から甘ったるい喋り方の内村香奈枝に
「心配かけてごめんね、もう大丈夫だから仕事頑張るよ」
そう笑うと少しだけ不思議そうな顔でにこっと笑って
「奈々ちゃん巻き髪かわいいよーがんばろー」
にこにこしながら女子特有の軽いはぐをして机に向かった。
休みの間の仕事はきっとみんながやってくれたみたいで
申し訳ない気持ちと、まだ9時だというのにお昼の楽しみを考えてるだけで、
いつもより少しだけタイピングをする手がわくわくした。
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