桜風

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「ただいま」 私の声に少しだけばたばたと母の階段の駆け降りてくる音がして 「奈々ちゃん、退院した後どこに行っていたの、心配したじゃない」 母の声は少しだけ不安そうだった。 私のうちには母しかいない、父親という人はもう何十年も見たことはない。 父は私たちを捨てて新しい家族を作り出て行った。 なんとなく小さいころから、母の泣いている顔を見ていて父親が不倫をしていたことに気づいていた。 父親に膝にだっこしてもらった記憶も、抱きしめてもらった記憶もなかった私にとってどうでもいいことだったのだけれども・・・でも母を泣かすような不倫に悪意を覚えていたのは鮮明に覚えていた。 でも同時に、父親を奪った相手の人が許せなくて憎くて悔しい思いをしたのも昨日のことのように覚えている。 そんなことを同時に思いながら、昼間の悪事を思い出して 「ごめんなさい」そう母に呟くと、なにいってんのーご飯食べましょ、奈々ちゃんのすきな肉じゃがにしたわよ、そう母の無邪気な声に少しだけ涙が溢れていた。 「あぁおいしいやっぱりお母さんの肉じゃが食べると落ち着く」 本当に心底思った、まるで昼間の出来事がすべて夢のようだった。 そんな私の言葉に 「入院して人が変わったみたいね」 そんな風に母が笑うから余計心がちくりとした。 ブーブー・・・食卓の上に置いた私の携帯がいきなりなりだした。
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