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「酒、ですかーー酒めぐりをするとなると、西北ですか南ですか、それとも琵琶湖を越えますか?」 「そこまで遠出をするつもりはないから、南だな。ああそれと、白露が久々に伏見の酒が飲みたいといっていた気がする」 「…………気がする」 「案ずるな北斗。いいのが無ければ雀の丸焼きでもみやげにするさ」  白露なら自力で狩って食べていそうだと言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。白露のためと言うより、秋成様が伏見に用があるのではないのか。しかし、ここで訊いたところではぐらかされるだろうから、私は伏見行きについて「わかりました」と答えるにとどめた。 「酒蔵まで行けば酒粕もありますよね……甘酒なら、和泉姫も大丈夫でしょうかね……美容にいいとも聞きますし」 「発想が主婦だな北斗」 「あ、そういう意味だったら後宮用にも多めに希望するよ。特に撫子用。これから先の神事用にも入用だけど、そっちは各地から奉納されるからいいかな」 「おふたりとも……なかなか楽観的ですね」
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