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 もちろん服もシャツやスカートといった洋服でなく、古語辞典の付録ページに載っている平安時代の服装にほぼ近い……というのも、人によってはファンタジーのようなアレンジで好きに着こなしているため、完全に平安衣装とも言い難いからだ。現に私もそうだ。おかげで多少は動きやすくていいけれど。 「ふぅ……」 「本日5度目」  ふいに声がかけられ、私は小さく身を震わせた。振り返るとーー 「ーー秋成……」 「そんなに露骨にがっかりした顔をしてくれるな、いくら俺とて少しは傷つく」  見上げた先に、困惑とからかいを足して割った複雑な表情の、私より5つ以上は年上であろう長身の男性が立っていた。躑躅色の直衣に白色の指貫、結わえることなく流した長い髪に涼しげな目元。そして胸元に下げられたこぶし大の水晶珠のペンダント。  彼がこの屋敷の主、陰陽師の保賀秋成(ほうがあきなり)。  私ーー貴鈴和泉(きすずいずみ)を、この平安のような異世界に召還した張本人でもある。
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