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雨の中、ふたりしてずぶ濡れで立ち尽くす。
顔が上げられない。
宏明の顔が見られない。
いきなり傘を壊すなんて、誰が見ても異常行動すぎる。
呆れただろうか。呆れるどころじゃないかもしれない。
――絶対おかしいヤツって思われた変なやつだって思ってる絶対!
「――ぶ……っ!」
「……え?」
微妙な沈黙を先に破ったのは宏明だった。
「ははっ。お前アホすぎだろ。折るとか意味分かんねぇ。はははっ」
宏明はカラリと笑い、俺の背中をバンバンと叩く。
そういえば宏明は、理解不能なくらい笑いのツボが浅めの笑い上戸だ。
俺は内心胸を撫で下ろす。
宏明は、額に張り付いた髪を掻き上げると、やっと早足にかけ出した。
「取り敢えずさっさと帰って風呂! あーもう、早くパンツ脱ぎてぇ!」
「ーーっ!」
無防備に言い放たれた言葉にまたも心臓が跳ね上がる。
ーーだから何なんだよこれっ!
先ゆく背中を追いながら、不穏に跳ねる自分の胸が意味不明だ。
今日、両親は帰りが遅い。
ーーこんな気持ちでふたりきりとか、俺どーすんの? や、つかどーすんのって何心配してんだよ俺、なんなんだよ俺ぇ!
宛てのない胸の中の慟哭が虚しく響く。
「あ、雨止んできた。俺らツイてねぇなぁ」
宏明が遠い空に掛かる虹を指差す。
振り返りざまに、その髪に滴る雨の余韻が揺れて散る。
俺は、それに触れたい衝動に駆られるが、折れた傘の柄を握りしめ
再び心の中で咆哮を上げた。
- end -
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