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この男はどこまで男らしいのか。
田園の真ん中で人の目などまるでない。
もし人が見たとしてもこの大雨の中だ。
おかしな目を向けられることはないだろう。
俺としても、ふたりでいるのに自分だけ傘を差してはいられない。
しかし、この男らしい友人は、俺が傘を畳もうとすると咎めるように止めるのだ。
「だからひとりじゃ差してらんないってば。止めるくらいなら宏明も傘ん中入れよ」
「やだって。俺はちょっとくらい濡れても平気だから」
「じゃあ、俺も平気」
「お前までわざわざ濡れることないだろ」
会話は平行線。
頑固が出て、歩を速めようともしない。
乾いた土が湿りを帯びる匂い。
稲穂が濡れる匂い。
「だから……、さ。良くないよ、濡れるのとか……」
激しさを増すばかりの雨が傘をけたたましく叩き、いつしか俺の呟きまでかき消す。
濡れたシャツが透けて、肌色を宿していく。
額に貼り付く長めの前髪。
雫を湛えたまつ毛。
宏明が、濡れてく。
―― なんだ、この感じ。
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