第1章 ただ恋をしたかっただけなのに

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第1章 ただ恋をしたかっただけなのに

カイブツ君は言った。 「ねぇ? 俺と付き合わない?」 彼は美大生だった。 私は彼の事を良く知らないのに 言ってしまったのだ 「いいよ」 「ええ? お前さぁ 付き合うって意味分かってる?」 カイブツ君は 自分から言い出した癖に 訝しげに聞き返した 「分かってるわよ」 さよ子は 口を尖らせて言った 「まぁ いいや 今度 デートしよう」 カイブツ君は  そのアダ名の通り フランケンシュタインのように 顔に傷がたくさんあった 彼は 交通事故に会い  顔を何針も縫う手術をして 実際、危篤状態で命が持つか 危ぶまれた経験を持っていた 時村さよ子も絵を描いていた さよ子は専門学校に通っていた カイブツ君こと 北野原けんじとは 美大を目指すための 画塾で知り合ったのだ 同じクラスでは無いのに カイブツ君は、時々 さよ子の絵を後ろから見て こう言った 「あぁ 書き出しはいつも最高なんだよね?」 さよ子は びくっとして振り向いた 集中が途切れ なかば いらいらとしているのに さよ子は自分の本当の気持ちを いつも出せなかった 感情を出さずにさよ子は見た 「ごめん 怒ってる?」 カイブツ君は馴れ馴れしく話を辞めない 「いつも 最初は格好いいのに なんで 途中で 潰しちゃうのかなぁ、と思ってさ」 さよ子はうつ向いた 何も喋らなかった ただ 怒っては居なかったので 口の端に笑みを浮かべて 怒ってはいない、と表現した さよ子は ただ うっとうしかった 絵の具が乾かない内に 筆を進めて調子を整えたいのに 自分のペースを乱す カイブツ君が 早く去っていかないかなぁ となんとなく思っていた時 にっと笑ってカイブツ君は 教室を出た 「またね」 彼は、そう言っていた カイブツ君は はっきり言って 顔の傷が無くても 男前とは言い難かった 背は高く 髪はストレートで長かった 体格は 標準より太めで 例えていうならば プロレスラーのようだ 本人はお洒落のつもりで 全身 白で統一していた 普通の子は カイブツ君に 自分からは 接して行かなかった みんな彼を嫌っていた もしかすると さよ子が彼と付き合おうと思ったのは 彼が嫌われ者だったからかも、しれない
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