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さよ子は、引っ越しをした。
お世話になっている不動産会社の
女社長に、お願いして
カイブツ君が訪ねても、住所を絶対に
教えないで欲しいと。
さよ子とけんじの共通の友人には
全て連絡して、同じように頼んだ。
だいぶ、経ってから、明子とも電話で話をした。
明子は告白した。
「実は、だいぶ前だけど
けんじ君と一日だけ付き合った事があるの」
明子は、暗い声で言った。
「さよ子に申し訳なくて、避けられなかったのよ
さよ子の事で相談があるからって言って来て
あいつ、さよ子とは上手く言ってないとか。。」
さよ子はきっぱり言った。
「いいのよ、気にしないで。
あたし、何とも思ってないわ
別れたかったの、ずっと。
だって、あの人、暴力振るうんだもん」
さよ子は、さらっと言った。
明子は驚いて言った。
「そうなの?そういうのが原因だったの?」
「じゃあ、さよなら明子、元気でね」
明子は、東京を去って田舎の実家に
引っ越しており、二度と東京には
戻らないつもりでいたのだ。
さよ子は、いつに無い解放感を味わい、空を見上げた。
カイブツ君が最後に言った言葉を
思い出していた。
「お前、本当は、他に好きな人がいたろう?
俺、分かってたよ。俺ぇ、自分に自信が無かったんだ」
さよ子は思っていた。
カイブツ君には言わなかったけれど、
私は確かに、最初の頃、失恋をして
忘れられない先輩がいた。
でもね、カイブツ君の事も、ちゃんと好きだったよ
貴方が暴力を振るわなかったら。。
さよ子が見上げた空には、二羽の茶色い鳥が
仲良く飛び立っていた。
ふいに、さよ子の目に涙が溢れた。
さよなら、カイブツ君。
さよ子は呟いた。
カイブツ君のボコボコの
頬っぺたを愛した事は後悔していなかった。
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