第1章 ただ恋をしたかっただけなのに

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さよ子は口ベタだった。 篤子がそう言っても、ただ、にこっと笑い 「何言ってるの そんなことないでしょう?」 と、気の聞いた事も言えず、ただ微笑んで 見守るしか出来なかった。 篤子は酔っぱらって、クダを巻きながら 圭助先輩に介抱されながら帰って行った。 さよ子は、忘れようと思うのだけれど どうしても思い出してしまう。 あの緩やかな坂道、見上げた時の先輩の顔を。 カイブツ君は、言った。 「俺の家、あっち」 「おいで」 そう言って、さよ子の肩を抱き寄せた。 カイブツ君は、 傷だらけの、ボコボコの顔をして にっこり笑って、さよ子に言った。 真冬の寒い季節だった。 「俺の上着のポケットに手ぇ入れなよ  こうすると、暖ったかいぜ」 誰からも嫌われてるカイブツ君は さよ子には、とっても優しかった。 少なくとも、この時はそうだった。 さよ子は、疑うような目をして カイブツ君の顔を見た。 カイブツ君のポケットは暖かかった。 私達は、よその人から見たら カップルに見えるんだろうか? さよ子は心の中で思った。 肩を抱き締めてくれるのは 嬉しかったのだけれど カイブツ君は小さい声で言った。 「お前ぇ もうちょっと、背が低かったらなぁ」 さよ子は少し、嫌な気がして 意地悪な事を言うなぁ、と思ったが 何も言い返せ無かった。 さよ子は心の中で思っていた。 圭助先輩だったら、背丈のバランスが 丁度良かったのになぁ。。 そしてさよ子は何となく カイブツ君も 誰かと自分を比べている、そう感じた。 その予感は当たった。 カイブツ君は 自宅に戻る前に、携帯電話を取り出した。 「ゴメン、ちょっと」 カイブツ君は、そう言うと さよ子の肩から腕を離した。 「あぁ? チィちゃん  やぁ、久しぶりィ元気?」 カイブツ君の話をしてる相手は 明らかに女の子だった。 「今さぁ、彼女とデート中なの  チィちゃんさぁ。。」 カイブツ君の話は長かった。 さよ子は、カイブツ君に対して 初めて、嫉妬を感じた。 このチィちゃんという女性は 携帯から、はみ出す声は高く まるでアニメの声優さんのようだ。 さよ子は、背の低い小柄で 可愛らしい様相の 女の子を想像していた。
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