第1章 ただ恋をしたかっただけなのに

5/5
前へ
/8ページ
次へ
けんじは、さよ子に、ついに手をあげた。 時には、足で蹴ることもあった。 けれども、さよ子が一番ショックを受けたのは 自分の性格を否定される事だった。 けんじは、強く怒った後は 必ず強く、さよ子を抱き締めてきた。 さよ子の心は次第に、恐怖と、 彼に従属せざるを得ない境地に 追い込まれていた。 時に、壁をドンドンと音を立ててなぐる けんじの姿があり。 さよ子の髪を優しく、ブラシでとかすけんじがいた。 「さよ子、立ってみな!  ほら、これを着てみな」 けんじは、さよ子の洋服を見立てて モデルのように、くるっと回って ポーズを取らせた。 さよ子は、笑顔で言われるままにした。 けんじは虚栄心の強い男だった。 「おふくろには、お前と付き合ってる事  報告してあるんだ」 「でも、専門学校じゃ無くて、美大って    ことにしてるからさ」 けんじは、美大生だった。 さよ子は専門学校に通っていた。 さよ子は、最初に出会った時に感じた 嫌な感覚を再び感じた。 そしてけんじは言った。 「さよ子、俺、今月厳しくってさ  お金、貸してよ」 さよ子は、断れなかった。 けんじは、お金を返さない男だった。 ただ、おごってくれたりはした。 「ここの支払いを俺がしてやるから こないだ借りたアレ、ちゃらな」 とか、あまりにもアバウトな どんぶり勘定は、さよ子にとっては 不満の種となって、くすぶっていた。 さよ子には、画熟時代の友人がたくさんいた。 クラスメイトの多くは男性で 当然、男子生徒の友人が多くいた。 みんな、画家を目指した仲間だった。 けんじは、嫉妬心が異常にあった。 さよ子の男友達を呼び出しては 飲みに連れ出し、飲んで酔っぱらっては ケンカして帰ってきた。 ついに、さよ子に連絡をしてくる 男友達は、いなくなった。 さよこは、憤りを感じた。 けれども、それだけ愛されてるのだと 自分を納得させ、悔しい思いは 心の奥に封じ込めた。 けんじは、安アパートの窓にもたれて ギターを引いていた。 彼は、趣味でバンド活動をしていた。 「俺、本当は、音楽で食って行きたいんだよ」 「さよ子、応援してくれよ」 そう言って、けんじは、バンド仲間に 「未来の、俺の嫁」 そう言った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加